マウスの交配について

私たちは現在、独自に樹立した「EGR-05」と「EGR-G01」の2種類のES細胞を、遺伝子組換え用の細胞として提供しています。

ES細胞「EGR-05」は、コートカラー(毛色)がアグーチである129S2と呼ばれている系統のマウスに由来します。Injectionを行うときの宿主胚は C57BL/6を使用していますので、キメラマウス(G0と呼ぶことが多いようです)はコートカラーがアグーチ(ES由来部分)とブラック(宿主胚由来部分)が混ざり合ったマウスとして生まれてきます。

改変操作を行った遺伝子が次世代に伝わるためには、ES細胞が生殖系列に寄与する必要があります。その点を確認するためにG0キメラマウスを まずC57BL/6マウスと交配することをお勧めします。G0マウスの産生する精子(EGR05細胞は染色体がXY型であるためESの寄与が大きくなるとキメラマウスはほとんどが雄となります)にES細胞(アグーチ)由来のものがあるとすると、アグーチはブラックに対して優性なので、アグーチの子がF1として得られます。このように、ES細胞由来の子どもができたときに"germlineにのった"といいます。

このとき、アグーチの子のうちの半分が組換えをおこした遺伝子座を持つ精子由来で、残りは野生型遺伝子座を持つ精子由来なので組換え遺伝子をもつF1を特定するためには、アグーチの子をPCRかサザンで分析して確認する必要があります。組換えを確認したF1をヘテロF1(+/-)と呼びヘテロF1同士を交配させてF2を作ると生まれてくるF2の1/4はホモ(-/-)に遺伝子が組換えられています。

ほとんどの方は急いで実験結果を知りたいのでF2世代で実験を行うのが通例です。しかし、遺伝的バックグラウンドが実験の結果に影響を与えることもあるので遺伝子組換えマウスを野生型の近交系マウス(たとえばC57BL/6)と10世代ほど交配をくり返して遺伝的バックグラウンドを一定の近交系マウスに揃えることが必要になる場合もあります。(注:このような場合必ず一度は雌の組換え個体を通さないとY染色体はES細胞の129由来のままで残ってしまいます)。

ES細胞「EGR-G01」は、129S2とGFPを導入したC57BL/6CrTGマウスのF1に由来するES細胞です。したがって、このES細胞から生じるG0キメラ マウスをC57BL/6と交配すると生まれてくる、ES由来の子はブラックとアグーチの2通りになります。さらにGFPのTGはヘミで入っているため蛍光の有無からES細胞由来かどうかを判定することはできません。そのため全ての子マウスについてPCR等で確認する必要があります。
GFPが邪魔になる場合は交配によりGFPを持たない個体を選ぶことも可能ですし、GFPを残した場合は移植実験などでKOマウスの細胞を簡単に追跡することができます。

私たちは、過去の実績の中で、これらの細胞が生殖細胞に分化することを確認しておりますが、G0からアグーチの子・GFP蛍光を持つ子が全く生まれてこない場合は、ES細胞が生殖系列の細胞でキメラを作っていない可能性がありますのでご連絡ください。EGR-G01の場合については、GFPを指標としたレスキュー操作を行うことも可能な場合があります。

G0キメラマウスの交配は生後2ヶ月を過ぎるころに始めるのが普通ですが、急ぐ場合は一般に、雌の個体は4週を過ぎると妊娠可能になり、 雄の個体は6週を 過ぎると妊娠可能になります。C57BL/6など近交系のバックグラウンドに揃えていくと産子数が平均7-8匹程度に減少しますし妊娠の機会も減ります。ICRなどのクローズドコロニーを系にいれると妊娠のチャンスが増え、産子数も倍ほどになるうえに子マウスも丈夫でよく育ちます。ただし、遺伝的な形質が均一ではないので実験 の目的によっては使用に適さない場合が出てきます。

2009-02-11

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